ジャックラッセルテリア


家で飼っている「幸太郎」は、15ヶ月になる雄の「ジャックラッセルテリア」である。
ジャックラッセルテリアは、イギリス原産の犬で、狐狩り用にブリードされてきた小型犬である。
欧米では、テレビドラマや映画などによく登場する。
ビクター(レコード会社)のトレードマークで、蓄音機に耳を傾けている犬(と、言われている)、ジム・キャリーの「マスク」やジョン・トラボルタの「マイケル」などに登場する犬というと、覚えている人も多いのではないかと思う。
愛嬌があり行動的で賢い犬なんだろうなと、勝手に想像していた。



ジャックラッセルテリア



街でジャックラッセルを見かけると、何気なく行動を観察するのも楽しみだ。
小さくて、かわいくて、好奇心が旺盛なので、見ていて飽きないからだ。
次に何を仕出かすか予想がつかない行動が何とも魅力なのだ。

ある時、ロンドンの人通りの多い中心街で、若いお兄さんに連れられたジャックラッセルを見かけた。
白と黒の模様で、まだ一歳くらいの仔犬のようだ。
人通りが多く、車道には車が絶え間なく行き来するのにもかかわらず、犬は紐を付けずに自由に歩き回っていた。
若者は、店の前で立ち止まってショーウインドウを見たりして、犬をあまり気にかけていない。
ジャックラッセルは、あっちに行ったり、こっちに来たりと自分の興味でうろうろしているので、私は迷子になったり車道に飛び出さないかと心配していた。

しばらくすると向こうから、飼い主に紐で繋がれたジャーマンシェパードがやって来た。
ジャーマンシェパードはジャックラッセルを気にする様子も見せず、飼い主と並んでトコトコと歩いてくる。
ところが、ちょうどジャックラッセルとすれ違う瞬間、ジャックラッセルに向かって大声で「ワン!」と吠えたのだ。
人間が誰かを脅かす時に後ろから「わっ!」とする、真にそのタイミングなのだ。
予期していなかった出来事にジャックラッセルはびっくりして腰を抜かしてしまった。
ジャーマンシェパードからすると『大成功』である。
その格好があまりにも滑稽で、私は一人笑いをこらえていたのである。

「何てこったい」と、立ち上がり、ジャックラッセルは、また歩き始めた。
しかし、飼い主とは違う方へ歩いている。
どうしたのかな、と思って見ていると、どうやら飼い主に良く似た後ろ姿の若者を主人と勘違いしているらしい。
しばらくして上を向いた。
「あれっ!」と、びっくりして、慌てて主人を探し始めた。
飼い主は相変わらず犬のことを心配することもなくマイペースで歩いている。
人ごみの中からやっと主人を見つけたジャックラッセルは、何事も無かったかのように主人の後ろを歩き始めた。

ほんの5分くらいの間に2つも笑える出来事を見せてもらった。
私は笑いをこらえつつおもしろい犬だなあと思った。そして、「飼ってみたい」という衝動にかられたのだ。

そんな訳でジャックラッセルテリアの事を調べてみた。
しかし、出てくるのは困ったエピソードばかりである。
穴が好きなので、穴の中に深く入り込んでしまい、自力で出れなくなり、消防隊員に救出された話や、梯(はしご)をつたって屋根に登ってしまい、落ちて怪我をした話、車の助手席で飼い主にじゃれてるつもりで飼い主の耳をかんでしまった話、数百メートルの崖からダイビングし、奇跡的に助かった話、などなど。

ジャックラッセルというとトラブルメーカーと連想するイギリス人は多い。
それでもイギリスではジャックラッセルの人気が高い。
「困ったもんだ」と嘆いてみても、どこか憎めないキャラクターなのだろう。

私のだんなも「トラブルメーカー」連想組だ。
「ジャックラッセルだけはだめ!」と、耳にタコができるくらい言われた。
が、大変なのはわかっていても飼ってみたいと思わせる何かが、ジャックラッセルにはあるのだよ。
だんなの意見は無視され、我が家にジャックラッセルテリアがやって来た。



幸太郎 the Jack russell terrir



名前は「幸太郎」。英語に訳すと「ハッピーボーイ」だ。テレビドラマの登場人物の名前からいただいた。
イギリス人には発音しづらいらしく、「紅茶郎」と呼ばれたりする。イギリスらしさを感じるが、ちょっとかっこ悪い。
近所の子供には「クアトロ」(ラテン語の4)と呼ばれている。
面白いことに「幸太郎」は「クワトロ」と呼ばれても尻尾を振って喜ぶのだ。

ジャックラッセルテリアには「スムースコート」と呼ばれる毛の短い種類と、「ラフコート」と呼ばれる毛の長い種類、「ブロークンコート」と呼ばれるその中間の長さの毛の種類がある。
幸太郎は、血統書には「ブロークンコート」と書かれていたが、どうやら「スムースコート」らしい。
母親が「ブロークンコート」で、父親が「スムースコート」なのだが、仔犬の時にはどちらに属するかわからない。
とりあえず「勘」で書いたのであろう。「勘」は見事に「はずれた」ようだ。

飼ってみると大変だった。

運動量が多いので、散歩(というか、全力で走り回る)は、毎日2時間くらい必要だし、興奮しやすい性格なので刺激しないようにコントロールしなくてはいけないし、興味があることに熱中すると、呼んでも戻ってこない。

余談だが、幸太郎を飼う遥か前、ある晴れた日の週末の午後、ジャックラッセルと散歩しているおじさんを見かけた。
なぜか、そのおじさんの表情は怒っていた。
おじさんは「おりゃー!」といっては、力いっぱいビンビンに張った紐を引き、ジャックラッセルを足元まで引き戻す。
ジャックラッセルは転がりながらおじさんの足元へ引き戻されるのだけど、次の瞬間には何事も無かったかのように前後左右、気の向く方向へ突進するのである。
歩いている間、30秒ごとにおじさんの「おりゃー!」が通りに響き渡る。
何とも楽しくなさそうな散歩風景である。
その時はジャックラッセルの性格を知らなかったので、「動物虐待だー」と思っていた。
しかし、今ならおじさんの行動が理解できる。
おじさんは疲れ果てていたのである。

イギリス式にきちんと訓練して育てようと思っていたが、道は険しい。
大切にしていた靴をボロボロにされただんなには「やっぱり・・・。あれほど言ったのに・・・」と、グチグチ文句を言われる始末。
次から次へとヤンチャぶりを発揮し、先が思いやられるなあと、少し後悔したりもした。



スリッパ命             This is the Life




そんな苦労をよそに幸太郎はのびのびと育っている。
幸いなことに、飼い主に対しても他の人や犬に対しても攻撃的になることはなかった。

トレーニングスクールに通って努力したこともあって、お座りや伏せの基本的なこと以外に、死んだふりや輪くぐり、立って回ることも出来るようになった。
時間はかかることはあっても、呼んだら戻って来るようにもなった(気がする)。



ドッグズトレーニングスクール       Hula Hoop Jump       Hello my friend



トレーニングスクールの皆からは「ジャックラッセルにしては賢い」と言われている。
喜ぶべきか、怒るべきか、微妙な表現である。
この場合は「いやいや、それほどでも・・・」としか答えようがない。
とはいえ、元気が良すぎて落ち着きがないのは相変わらずである。

今日も幸太郎と散歩に出かけた。
近くにある森で、リスを追いかけ回すのが幸太郎のささやかな(?)楽しみである。
リスを見つけると呼んでもなかなか戻ってこない。
私は「何回呼んでもすぐ戻ってこないんだから・・・・・・」と、いらいらしながら待っている。
しかし、待っている私に気付き、離れたところから一生懸命走って戻って来る幸太郎を見ると、つい、よしよしと頭をなでてしまう。
こういう些細なことをうれしく思うことが、犬を飼う楽しみなんだろうと思ったりするのである。



よしよし          ん !?





09 January, 2002





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