行動カウンセリングって何ですか?



ペットを安楽死から救え



ペットに飼い主の手に負えない問題行動が起こった場合、多くの人たちは獣医に相談します。
獣医は、獣医学的な立場から問題の解決を探ります。
過去に同じような症状で効果のあった薬を与えたり、体の不調が問題行動を引き起こしていないか調べます。
しかし、これらの治療で効果の無かった場合、残された道は安楽死しかないという場合も少なくありません。

長い間、安楽死させずに、これらの問題行動を解決する方法があるのではないかと、議論されてきました。
そこで注目を集めたのが、問題行動治療です。

多くの動物行動学者等が研究した結果、医学的な理由による問題行動以外の多くは、飼い主側の対応に原因があるということが明らかになってきました。
飼い主のペットに対して間違った対応が、多くの問題行動と関係していることが注目されました。

イギリスでは、問題行動治療を的確に行うための、行動カウンセリングの必要性が認められました。
1989年にはペット ビヘイビア カウンセラー協会が発足しました。
現在ではペット ビヘイビア カウンセラー協会の会員は、約50名。会員以外でも問題行動カウンセラーやペット ビヘイビアリストとして約500人が、カウンセリングの仕事を行っています。
そして、その効果が認められると同時に、(動物行動学の)専門知識をもったカウンセラーの役割が多くの人たちの支持を集めています。




問題行動とは



ペットの問題行動で、「病気が原因するもの以外」には大きく分けて二通りあります。

ひとつは飼い主の基本的な、しつけが欠けていて起こる場合(飼い主がペットをコントロールできずに本能的な行動を問題だと認識する)、もうひとつは飼い主がペットの習性、特性、性格などを充分理解できていない(飼い主がペットの信号を見落とす)ことで起こる場合です。
その他には、ペットの性格や生活環境からおこる問題行動もあります。

しつけに関わる問題行動には服従関係の誤認識から起こる「権勢症」や、社交性が備わっていないことで生じる恐怖心から起こる「攻撃性」などがあります。
飼い主が原因する問題行動は、しつけを十分していても、ある日突然起こることがあります。

例えば、今まで吠えたことがなかった犬が突然吠え出したり、今まで音にはあまり反応しなかったのに、雷や花火の音を聞くと、突然家の中を狂ったように走り回るようになった、という現象などです。
この場合は、飼い主の対応(しつけ)だけでは問題の解決につながらない場合もあります。

飼い主は突然の理解しがたい行動に、犬がおかしくなったのではないかと頭を悩ませたりします。

これは、ほんの一部のケースですが、問題行動にはその他、様々な事例があります。




カウンセリングで何するの?



行動カウンセリングでは、問題行動の原因を分析し、「飼い主に問題行動を解決する方法」をアドバイスします。

行動カウンセラーは「生態学」や「動物行動学」と「臨床動物行動学」の基本的知識をもっています。
これらの知識を独学で身に付けて開業している人たちもいますが、多くは大学などの教育機関で、専門的な教育を受けてきた人たちです。
なぜならば、誤った治療をした場合は、それが些細なことであっても、ペットに対して取り返しのつかない深刻な結果をもたらす場合があるからです。それは、永久に矯正不可能な問題行動がペットに残ってしまう可能性が生じる危険があることを意味しています。
そのため、カウンセリングや治療には、科学的な根拠と細心の注意が必要であり、その事例に合った対応が求められます。
イギリスでは、臨床動物学者のロジャー・マグフォード博士によって、行動カウンセラーの資格が明確に定義されています。

彼らは、「ペット(コンパニオンアニマル) ビヘイビア カウンセラー」、あるいは「ペット ビヘイビアリスト」と呼ばれています。

問題行動の原因は多様です。
そのため、カウンセリングをする上では、獣医師とのコミュニケーションは欠かせません。
まず、身体上の問題が原因していないかを獣医に行って調べてもらいます。
体に何の異常も認められなかった場合や期待していたほど治療の効果が表れなかった場合は、精神的なものが影響しているのではないかと疑います。

実際のカウンセリングでは、飼い主やその家族が、ペットにどのように接しているのか細かく情報を収集するところから始まります。
ペットの生活環境がその行動に大きく影響するため、ペットの一日のスケジュールや性格、食べ物、家族構成などの細かい情報が必要となります。

次に、問題行動がどのようにして起こったのか追求していきます。

そして、これらの情報を基に症状を分析し、問題行動を矯正するためのアドバイスとプログラムを、飼い主に提供していきます。

問題行動はすぐに解決する場合もありますが、程度によっては何ヶ月もかかる場合もあります。
大切なのは「飼い主がどれだけ努力できるか」によります。

カウンセリングでは飼い主が根気良くプログラムに取り組むことができるよう配慮し、飼い主とペットがもう一度、関係を再構築できるように努力します。




問題行動って新しい病気?



社会が複雑化し、ペットと人間の関係も変わりつつあります。
一部の学者は「ペットが人間と同じ家の中で暮らすようになって問題行動が増加した」と指摘しています。

人間社会が複雑になればペットもその複雑な社会で対応せざる負えません。

動物は本能や習性に忠実に生きようとしますが、そのギャップが大きければ大きいほど、ペットにとっては耐え難い負担となります。
そのストレスは、いろいろな形となって表面化します。
表面化した「飼い主には理解のできないペットの行動」が問題行動と呼ばれます。

それは新しい出来事ではなく、以前から確認されていました。
しかし、解決する手段には限りがあったのです。




ドッグトレーニング(服従訓練)と問題行動カウンセリングは何が違うの?



ドッグトレーニングと問題行動治療は根本的に違うものです。

まず、多くの人はドッグトレーニングで基本的なしつけをします。
ドッグトレーニングに自信の無い場合や上手くいかない場合には、ドッグトレーナーの力を借ります。
多くの人は、ドッグトレーニングスクールで、トレーナーから効率的に犬を「コントロール」する方法を教えてもらいます。

ドッグトレーニングは、明確に定義された体系をもたないため、トレーナーによって、その理論や方法は様々です。
自分に合ったメソッドを採用しているトレーニングスクールに通い、そこで覚えたことを基本に、犬に家族の一員としてのルールや社会の一員としてのルールを教えます。

しかし、例えばいくら飼い主が努力しても一向にトレーニングの成果が出ない、あるいは、ある日突然今までとは違う行動をするようになる場合があります。

その場合、獣医師のところへ行き、体の異常がトレーニングを妨害したり、病気が今までとは違う行動を起こさせていかを調べてもらいます。
ここで問題が解決されれば、ペットはまた家族の一員として迎えられるでしょう。

しかし、体に異常がないのに問題が起った場合は、「何か」が精神的に影響している可能性があります。
問題行動は、しつけができているか、いないかに関わらず起こる可能性がありますし、しつけだけでは、問題行動を矯正できない場合もあります。

行動カウンセリングは、その精神に影響を与えている「何か」を突き止めます。

それは、ペットに直接関係してはいますが、飼い主が問題行動の原因である可能性があります。
実際のカウンセリングでは、飼い主の精神的な状況がペットに問題行動を起こさせてはいないか、間違った方法や理論でしつけをしていないか、あるいは生活環境がペットにとって負担となっていないかを調べます。

相談者の中には、「ペットのことで相談しに来たのに、どうして私のプライベートなことまで聞くのか」と怒る人もいます。
しかし、行動カウンセリングでは、ペットの置かれている環境を明らかにすることは、非常に重要なのです。
なぜなら、飼い主とペットの関係や生活環境が問題行動の原因となるケースが多いからです。

ドッグトレーニングでは犬の行動を「コントロール」することを目的としていますが、行動カウンセリングでは、ペットと飼い主の関係を健全化(再構築)するのを目的としています。
よい関係が再構築されれば、益々ペットに愛情を感じ、トレーニングの成果も上がることでしょう。




おしまいに



ペットが奇怪な行動を取るようになって、ペットへの愛情が薄れる人もいるでしょう。
しかし、飼い主が少し努力して、ペットの立場に立ってあげることで、お互いがより良い関係を作ることは可能なのです。
それは、ペットがなぜ奇怪な行動を取るのか、その根拠を明らかにして適切に対処するということです。

ペットが社会の一員として認められるにしたがい、ペットの精神的負担は大きくなりました。
そして、その負担に耐えられなくなった時、私たちの理解できない行動へと発展していきます。

その理解できない行動を起こすペットに対して私たちは、どのように対処したらよいのでしょうか。
この問題は、長い間議論されてきました。

ペットの役割については、これからも議論されるでしょう。

問題行動カウンセリングは、これらの過程で「動物行動学」や「臨床動物行動学」、「獣医学」などの各分野の専門家たちが研究の末、生み出し発展してきました。そのため、問題行動カウンセリングおよび治療は、学問として成立した分野であり、カウンセラーには専門知識と技術が求められています。
今では、カウンセラーの必要性が、ペットを飼う人たちの間で高く評価されています。


 菊地 三恵 

 MSc CABC
 ペット ビヘイビアリスト (Pet Behaviourist)
 問題行動カウンセラー (Companion Animal Behaviour Counsellor)


英サウスハンプトン大学にて動物行動学、コンパニオン・アニマル・ビヘイビア・カウンセリングを学ぶ
英国コンパニオンアニマル・ビヘイビアセラピー・スタディグループ メンバー
(Member of Companion Animal Behaviour Therapy Study Group)
英国家庭犬トレーナー協会会員 APDT

 現在の主な活動
Dr. Roger Mugford (ロジャー・マグフォード/臨床動物学博士) のアシスタント行動カウンセラー
を経て
英国の動物病院や動物愛護団体で問題行動の治療と犬のトレーニングを行う。帰国後は札幌の高橋動物病院で飼 い主向けに同じくペットの行動治療とトレーニング教室を実施。その他、犬猫雑誌への執筆、専門学校や各地でで子 犬の社会化、早期トレーニングの必要性、問題行動の治療に関しての講義を行っている
著書に「英国式ペットカウンセリング −愛犬とハッピーに暮らすために−」(ブロンズ新社)、「これで解決!愛犬の問題行動」(NHK出版)がある










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